思想や哲学、芸術など諸ジャンルを横断し、斬新な論考を多数発表してきた稀代の批評家、絓秀実。三島由紀夫や花田清輝らに関する初期文学論から、1968年をめぐる社会運動・政治思想論、さらには映画、歌謡曲、B級グルメなどの風俗エッセイまで、これまで絓秀実は対象をつねに「いま」論じるべき意義から問いなおし、ポレミカルな批評=批判として表現してきた。
天皇制、フェミニズム、大学問題など、現在も紛糾する諸問題のアポリアを剔抉(てっけつ)してきた絓秀実の批評こそ、「いま」読みなおすことが求められている。事実、目下の難題を乗り越えようとする若い世代を中心に、絓秀実の評論は今まさに再発見されつつある。
そうした読者の期待に応えるべく、本コレクションは構想された。現在では入手困難となった『メタクリティーク』『複製の廃墟』『「超」言葉狩り宣言』をはじめとした10冊の単著にとどまらず、単行本未収録原稿からも複数厳選。多様なテーマから編んだ全2巻となっている。
外山恒一、吉川浩満、木澤佐登志、綿野恵太ら、絓秀実の思想に通暁した批評家や思想家、編集者などの特別寄稿を掲載。
■第一章 メタクリティーク(正しい表記はメに×)
ナルシスの「言葉」──中上健次論
「母」の力──『鳳仙花』を読む
偶数と奇数──『千年の愉楽』を読む
家=系の破壊──小島信夫論
いろはにほへと──深沢七郎「みちのくの人形たち」を読む
倫理・教育・物語──尾辻克彦論
[大岡昇平論]言葉という影へ
母という歴史
■第二章 青春の廃墟
「私小説」をこえて──小林秀雄と安岡章太郎
悲惨さの方へ──書くこと、そして読むこと、あるいは批評のためのメモ、ではなく...…
[三島由紀夫論]死刑囚の不死
複製技術時代のナルシス
[中村光夫論]リアリズムの廃墟
極言の言葉
[平野謙論]プティ・ブルジョア・インテリゲンツィアの背理
フィクションとしての人民戦線
「死者」の形而上学──昭和十年前後と戦後文学の「理念」
媒介者というファシスト/無媒介の運動──林達夫と花田清輝
先駆者・中村光夫
道化のような「死者」の肖像
■第三章 書くこと=自己意識
自己意識の覚醒──昭和文学の臨界
[横光利一論]「純粋小説論」まで
『上海』まで
書く「機械」
探偵のクリティック──批評の系譜
貴種流離のパラドックス──磯田光一と「昭和」
柄谷行人──恋愛の主題による変奏
■第四章 小説/ジャーナリズム
「純文学」をもこえて
現代小説の布置──「永山則夫問題」の視角から「メディア」が透明でなくなった時──ナショナリズムとジャーナリズム
異化するノイズ──中上健次『奇蹟』を読む
小説を書かない小説家──作家ビートたけしの諸問題
探偵=国家のイデオロギー装置
今日のジャーナリズム批評のために──小林秀雄と大西巨人
歴史修正主義の基本構造
ポスト「近代文学史」をどう書くか?──「元号」と「世代」をこえて
国民の「俗情」は「痛み」を回避する
「純文学」を必要としているのは誰か
「過激派」気質
「おばさん」という記憶/忘却装置──金井美恵子『軽いめまい』
田村隆一に逆らって
「文学場」の変容──「批評」と「研究」の闘争を提起する
■商品情報
絓秀実コレクション1 複製の廃墟──文学/批評/1930年代
発売日:2023年7月4日
価格:5,500円(税込価格/本体5,000円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5判/721頁
ISBN:978-4-909852-42-7